長崎県の離島医療の歩み
良質な地域医療のための医療圏構想
長崎県の離島では、昭和20年代は保健船による巡回診療が行われ、昭和30年代はへき地診療所の建設と大学病院の協力による巡回診療の充実が図られましたが、地理的なハンディを抱え、医療施設が少なく、医師は慢性的に不足し、医療の確保は困難を極めていました。そこで、これらの問題を解決するために、昭和35年頃長崎県衛生部は離島の保健医療を充実させ、本土並みに向上させるためのプロジェクトチームを結成。離島の市町村が行ってきた病院・診療所経営と県が行ってきた保健医療を一体化させ、限りある医療資源、医療財政の有効利用により、良質の地域医療を展開するための「医療圏」構想を打ち立てました。
2本立ての県医師養成制度を開始
まず、各2次医療圏域の医療の充実を図るため、基幹病院の施設の老朽化解消や増床、医療器械の整備を行い、病院運営・経営の基盤整備のため「医療圏」構想の仕上げとして、昭和43年県と関係市町村が一体となって「長崎県離島医療圏組合」を設立しました。次に、医師確保のため、昭和45年に「長崎県医学修学資金貸与制度」、昭和47年全国的に「自治医科大学派遣制度」が創設され、2本立ての県医師養成制度が始まりました。
専門的な診断や治療方針が離島医療情報システムで可能
昭和53年医学修学資金貸与制度による県養成医の離島勤務が始まることとなります。当時、長崎県離島医療医師の会(もくせい会)の創設者グループである若手の派遣医師は、スタッフ不足、機材不足で大変な苦労をしましたが、これが離島医療の礎となり、この後離島の勤務医は増加の一途を辿ることとなります。また、昭和50年代後半から平成初頭にかけては医療圏組合病院の移転・新築、高度医療機器の整備が進められ、平成3年には離島医療情報システム(遠隔画像診断システム)が導入されて、専門的な診断や治療方針、ヘリコプター搬送の決定に利用できるようになりました。
初期臨床研修制度の導入、医局の崩壊で、大学からの派遣医師の引き上げがありますが、医師養成制度により、何とか医師確保ができている状況にあります。なお、長崎県は、平成17年初期臨床研修医、大学院生に対する医師研修資金貸与制度、平成18年後期臨床研修医に対する医師研修資金貸与制度を創設し、更なる医師確保に努めています。
総合医療から専門医療まで島内で完結できる医療環境
長崎県の離島では総合医療から専門医療まで、一部の3次医療を除けばほぼ島内で完結できる医療環境が整っています。
現在の医師数や医療機関MAPについては、下記「ながさき地域医療人材支援センター」情報よりご覧ください。
常勤医師派遣、代診医派遣で円滑な診療体制
小離島や大離島周辺部の診療所運営は従来市町村により行われていましたが、医師の高齢化や都市部への流出、大学医局派遣医の引き上げ等により、特に小離島での医師確保が困難となってきました。
長崎県は、平成16年「長崎県離島・へき地医療支援センター」を設置し、公募による常勤医師派遣(長崎県ドクターバンク事業)、代診医派遣、IT等を活用した医療支援、へき地医療支援機構業務を行うこととしました。常勤医師は県職員として採用され、1年半の離島勤務後、半年の自主研修が保障されています。また、365日24時間の診療支援体制が整えられています。これまで、3年間で6名の常勤医を確保し、市町立診療所に派遣。現在、離島全体で57の診療所がありますが、常勤医師がいる診療所が28(このうち15が小離島)は、全て欠員なく診療が円滑に行われています。
長崎県と五島市の寄付で離島・へき地医療学講座を開設
長崎県と五島市の5年総額約2億円の寄付により、平成16年長崎大学大学院医歯薬総合研究科「離島・へき地医療学講座」が開設されました。その業務は、離島医療専門家養成のための医学教育システムの研究開発、効率的地域医療情報システムの研究開発、離島・へき地における健康・疾病に関する疫学的研究調査、上記研究成果の医療従事者および地域住民への普及活動、医学部学生に対する離島医療・地域保健実習の実施です。これらの活動拠点として、五島列島(五島市)にある五島中央病院内に離島医療研究所が設置されています。長崎大学医学部生に対する離島医療・地域保健実習は、5年生全員をグループ分けして7月から翌年2月にかけて、五島市、新上五島町、対馬市に1週間滞在させ、基幹病院、地域病院、診療所、訪問看護ステーション、社会福祉協議会、保健所、市町の行政機関などで、医療・保健・福祉の実習を行っています。また、6年生は3期のグループに分け、4月から7月にかけて5週間ずつ五島中央病院、上五島病院で、内科総合コース(1名)、外科総合コース(1名)のクリニカルクラークシップ(診療参加型臨床実習)を行っています。
離島勤務・離島医療に興味を持つ医学生が増加
実習の効果を調査するために実習前後で行ったアンケート結果では、総合医か専門医かの設問には有意差が出ませんでしたが、将来離島で勤務したいか、離島医療に興味はあるかの設問では、有意に勤務したい、興味があるという回答が多くなっていました。早期体験で離島医療に対する負のイメージが変わり、将来的に離島医療やへき地医療に係わる医師を増やす可能性が示されたと考えられます。
全国から注目される長崎県の離島医療の仕組み
平成16年から初期臨床研修が義務化されましたが、離島医療圏組合病院、診療所では、長崎大学医学部付属病院や国立病院長崎医療センター等の協力型病院として、地域保健・医療や総合医療研修に関して、多くの研修医を受け入れてきました。離島の総合医療、地域包括ケアーはシステム化が進んでおり、研修プログラムも充実、高い評価を受けています。
また、五島中央病院は管理型臨床研修病院として、これまで3名の研修医を育て、対馬いづはら病院、上五島病院は平成20年度から管理型して研修医を募集することとなりました。「地域の医師は地域で育てる」を合言葉に、学び、育み、実践する医療を進めています。
このように、長崎県の離島医療の仕組みは、医療制度や医療環境の変化、時代の変遷に答えられるように年々進化しており、長崎システム、長崎モデルとして全国から注目されています。